活用事例
2026.06.29
【CuGoMEGA導入事例】シカ対策ロボットは「自分で帰れる」ことが条件だった。 東大院生が林道で挑んだ完全無人化への1年

活用事例
シカ対策ロボットは「自分で帰れる」ことが条件だった。
東大院生が林道で挑んだ完全無人化への1年
東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物機械工学研究室
野生動物による農林業被害——特にシカによる食害——は日本各地で深刻化している。人の代わりに林道を自律巡回し、夜間も休まず動き続けるロボット。そんな「屋外版ルンバ」の実現に、東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物機械工学研究室の修士2年・鴨田薫佳さんが挑んでいる。
その足回りとして選ばれたのが、CuboRexのクローラーユニット『CuGoMEGA M1』だ。今回、鴨田さんにインタビューを行い、学部時代のエンジン草刈り機での失敗から始まる2年以上の試行錯誤、そして林道での自律走行・自動ドッキング実験の成果について詳しく話を伺った。
PROFILE
鴨田 薫佳(かもだ しげよし)
東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物機械工学研究室 修士2年
学部4年次より鳥獣害対策ロボットの研究に取り組む。Japan Innovation Challenge でレスキューロボット操縦手を経験。現在は林道での自律走行・自動ドッキングシステムの開発を主導。博士課程進学予定。
1. なぜ「林道でロボットを往復させる」のか
日本の森林では、シカによる樹皮剥ぎや下草の食害が深刻だ。人が林道を歩くとシカが逃げる習性があることはよく知られているが、毎日人が巡回し続けることは現実的ではない。
「ロボットに人間の音声などを再生させながら林道を往復させることで、シカが嫌がってその場所を避けるようになるのではないかと考えました」と鴨田さん。
しかし、自動で往復するだけでは不十分だ。バッテリーが切れるたびに人が回収・充電に出向いていては、無人化の意味がない。ロボットが自分でステーションに戻り、自分で充電して、また出動する——そんな「お掃除ロボット(ルンバ)の屋外バージョン」こそが、この研究の最終ゴールだ。
「工場の中のような平坦な環境でのロボットはたくさんありました。しかし、屋外のデコボコした林道のような環境で、自律で実車を走らせて戻ってくる事例はほとんどありません。そこへの挑戦が一つです」
— 鴨田さん
2. 前身はエンジン草刈り機——2年以上の試行錯誤
鴨田さんがこの研究を始めたのは、大学院に進む前の学部4年次。当時は市販のエンジン草刈り機を買ってきて改造し、ロボット化を試みていた。
「失敗だらけで……(笑)。まずエンジンなのでとにかく扱いが難しい。その割には思ったよりパワーが出なかったり、機体自体が重すぎて傾斜地での運用には課題が多すぎました」
— 鴨田さん
試行錯誤の末、「これからは電動(電気駆動)の方が絶対にいい」という結論に至り、研究室で眠っていたCuboRexのクローラーユニット(CuGoMEGA)を「私に使わせてください!」と手を挙げて引き継いだ。
電動クローラーへの転換後も、順調にはいかなかった。大学のキャンパス内では動いていたシステムが、いざ本番の林道に持ち込むと全く機能しなかった。
「現場の環境は甘くないなと痛感しました。キャンパス内のテストではちゃんと動いていたのに、本番では全然うまく走りませんでした」
— 鴨田さん
3. 衛星に頼らない「マップマッチング」で3cm以内の精度を実現
林道の最大の難関は「自己位置推定」だ。木々が深く生い茂る森林ではGNSS(GPS)の電波が届きにくく、位置情報を衛星に頼ることができない。今回のシステムは、周囲の環境を3Dスキャンする「LiDAR(ライダー)センサー」のみで走行する仕組みを採用した。
ただ、単純にLiDARで走らせるだけでは不十分だった。今回の目的は同じ経路を繰り返し走行することであり、走りながら同時に地図作成と自己位置推定を行う一般的な「LiDAR SLAM(スラム)」では、林道のような振動が起きやすい場所で現在位置を見失いがちになるためだ。さらに、LiDARから得られる点群と地図点群のマッチングにあたり、IMU(加速度・角速度センサー)のデータを3D LiDARのデータと組み合わせることで、振動に強いマップマッチング手法を実現した。
❌ LiDAR SLAM(従来手法)
走りながら同時に地図作成と自己位置推定を行う。林道のような振動が起きやすい場所では現在位置を見失いがちになる。
✅ マップマッチング(今回採用)
朝に手動で完璧な3D地図を作成。本番では事前マップと現在のセンサー情報を照合して走行。IMUとの組み合わせで振動に強い。
朝に一度だけリモコン操作(手動)でロボットを走らせて周囲の環境をスキャンし、3D地図を作成。午後からの本番自律走行では、その事前地図と現在のセンサー情報をリアルタイムで照合しながら走行する。
「このやり方に変えたことで、2回目以降の自律走行からは、わずか3cm以内の誤差という非常に高い精度で安定して走れるようになりました」
— 鴨田さん
4. 成功率100%の自動ドッキング——悪路でカチャッとハマる機構の秘密
自律走行と並ぶ難関が「自動ドッキング」だ。毎回地面の状況が異なる林道で、ロボットが正確にステーションに帰還し、充電コネクタと接続する——これを完全自動で実現しなければならない。
①
ガイドレール
斜め進入を直進に矯正
②
コネクタの遊び
上下左右1cmの位置ズレを吸収
③
マグネット検知
磁気センサーでドッキング確定
✓
ドッキング完了
ルートの最後だけ「ステーションへ真っ直ぐ進む直線」に設定し、ロボットはその経路を辿るだけでステーションへ進入。最後の瞬間、ステーション側に設置されたマグネット(磁石)をロボットの磁気センサーが検知すると「ドッキング完了」と判定して停止する。
「本番の実験では7回走らせたのですが、7回ともすべてドッキングに成功しました。成功率は100%です」
— 鴨田さん
実証実験の様子
5. 「走破性が凄まじい」——CuGoMEGA M1、現場のリアルな評価
インタビューの終盤、CuGoMEGA M1を実際に現場で使った感想を聞いた。エンジン機での苦労を知るからこそ、その言葉は重みがある。
「とにかく『走破性』が凄まじいなと毎回驚いています。人間の拳3個分くらいある大きな石がゴロゴロしているような場所でも、雨のせいで深い溝ができてしまっているような林道でも、何事もないかのようにガンガン乗り越えて走ってくれるんです。しかも、バッテリー3個くらいで5時間ほどはずっと稼働し続けられるタフさもある。エンジン機で苦労したからこそ、『現場のリアルな環境で、即戦力としてガシガシ使えるものだな』と凄く実感しています」
— 鴨田さん
さらに、現在発売中の次世代機「CuGoMEGA M2」の存在を伝えると、鴨田さんの目が輝いた。
「えっ、そうなんですか!それはM2もめちゃくちゃ気になりますね。ぜひ使いたいです!(笑)」
— 鴨田さん
6. 今後の展望——農地害獣対策へ、博士課程で3〜4年かけて
鴨田さんは今後、研究をさらに発展させる計画を持つ。まず、舞台を林道(森林)から農地(畑)へと広げる。農地には木々がなく目印が少ないため、LiDARのみでは位置推定が難しい。そこで今度はGNSSを組み合わせた自律走行が必要になる。
「開けた場所でのGNSSを活用した自律走行と、今回開発した自動ドッキング充電システムを組み合わせることで、今度こそ『何日も完全無人で動き続ける害獣対策ロボット』を実現させたいと考えています」
— 鴨田さん
そして鴨田さんは、この研究をさらに加速させるべく、博士課程への進学を決めた。
「私はこのまま博士課程に進学する予定なので、この研究はあと3〜4年は継続してガッツリやっていきます」
— 鴨田さん
屋外で自律的に動き続けるロボットへの挑戦は、まだ始まったばかりだ。
編集後記
「ルンバの屋外版」——この一言が、研究の本質を見事に言い表している。エンジン草刈り機での挫折、半年越しの自己位置推定との格闘、そして悪路での100%ドッキング達成。鴨田さんが積み重ねてきた試行錯誤の一つひとつが、今の成果に直結している。
現場のリアルな悪路で「即戦力としてガシガシ使える」と言っていただけた言葉は、CuGoMEGAが目指してきた設計思想の証明でもある。農地害獣対策という次のステージでも、鴨田さんの研究に並走していきたい。
取材協力:東京大学大学院 生物機械工学研究室 鴨田薫佳さん
動画写真提供:東京大学大学院 生物機械工学研究室
この事例で使用された製品

大型クローラーロボットプラットフォーム
CuGoMEGA M2
積載350kg / IP64相当 / 段差16cm。過酷な不整地で確実に動き続ける産業用クローラーユニット。



